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東京高等裁判所 平成2年(行ケ)148号 判決

東京都文京区弥生二丁目四番四号

原告

ミヤコ、スポーツ株式会社

右代表者代表取締役

小林秀夫

右訴訟代理人弁理士

松田喬

東京都千代田区霞が関三丁目四番三号

被告

特許庁長官 植松敏

右指定代理人

田辺隆

後藤晴男

主文

原告の請求を棄却する。

訴訟費用は原告の負担とする。

事実

第一  当事者の求めた裁判

一  原告

1  特許庁が、平成二年三月二八日、同庁昭和五九年審判第七二五三号事件についてした審決を取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

との判決

二  被告

主文と同旨の判決

第二  請求の原因

一  特許庁等における手続の経緯

原告は、昭和五四年一二月一二日、物品を「こんろ」(後に、「ガスストーブ兼用こんろ」と補正)とする本判決別紙図面1のとおりの意匠について、昭和五四年意匠登録願第五一九八九号を本意匠とする類似意匠登録出願(昭和五四年意匠登録願第五一九九〇号、後に独立の意匠登録出願に変更)をしたところ、昭和五九年一月三一日、拒絶査定を受けたので、同年四月一六日、これに対する審判の請求をした。

特許庁は、同請求を昭和五九年審判第七二五三号事件として審理した上、昭和六二年七月一日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同月二九日、原告に送達された。

原告は、同年八月二八日、東京高等裁判所に右審決の取消訴訟を提起し、昭和六二年行ケ第一五八号審決取消請求事件として審理された結果、昭和六三年四月一二日、「特許庁が昭和五九年審判第七二五三号事件について昭和六二年七月一日にした審決を取り消す。」旨の判決が言い渡され、同判決は、昭和六三年四月二七日確定した。

特許庁は、同審判事件について再度審理をした結果、平成二年三月二八日、「本件審判の請求は、成り立たない。」との審決をし、その謄本は、同年六月一三日、原告に送達された。

二  本件審決の理由の要点

本願は、昭和五四年一二月一二日の出願であって、その意匠は、願書の記載及び願書添付の図面によれば、意匠に係る物品を「ガスストーブ兼用こんろ」とし、形態を別紙図面1(本判決別紙図面1)のとおりとしたもの(以下「本願意匠」という。)である。

これに対して、当審では次の主旨の拒絶理由を通知した。

即ち、「本願意匠は、この出願前、国内に頒布された刊行物「Eurosport & Freizeit Mode」一九七六年八月号(特許庁資料館所蔵受入昭和五一年一〇月二六日)の第ⅩⅠ頁所載の「こんろ」(特許庁意匠課公知資料番号第五一〇九四五七八号。以下「引用形態1」という。別紙図面2(本判決別紙図面2)参照)の下部ボンベ部及びボンベ固定プレートを、この出願前、国内に頒布されたカタログ「'80 llope」(特許庁意匠課資料係所蔵、受入昭和五四年一一月二二日)の表紙裏頁所載の「こんろ」(以下「引用形態2」という。別紙図面3(本判決別紙図面3)参照)のボンベ及びボンベ固定プレートに組み替えたまでのものにすぎない。

また、このようにボンベを変更することは、この種の物品では燃料使用時間に応じてひとつの機種で数種のボンベを用意していることが一般に行われている点を考慮すれば、極めて容易に着想しうることである。

したがって、本願意匠は、日本国内において広く知られた形状、模様若しくは色彩又はこれらの結合に基づいて容易に創作することができたものであり、意匠法第三条第二項に規定する意匠に該当する。」

以上の主旨の拒絶理由を平成元年一月一一日付けで通知し、期間を指定して意見書を提出する機会を与えたが、請求人(原告)からは何らの応答もない。

そして、上記の拒絶理由は妥当なものと認められるので、本願は、この拒絶理由によって拒絶すべきものである。

三  本件審決を取り消すべき事由

本件審決は、本願に適用されるべき意匠法施行規則の別表の区分と異なる区分に属する物品を引用形態として用いた(取消事由1)上、本願意匠と引用形態1及び引用形態2との各相違点を看過した(取消事由2)結果、本願意匠が容易に創作をすることができたものと誤って判断したものであるから取り消されなければならない。

1  取消事由1

本願意匠は、本願に適用されるべき意匠法施行規則の別表の区分では九類に属するのに、引用形態2の物品は、同別表の区分で一一類に属するものであって、本件審決がこのように異なる区分に属する物品を引用形態として用いたのは違法である。

2  取消事由2

(一) 本件審決は、本願意匠と引用形態1との次の相違点を看過した。

(1) 本願意匠には、支持板とそれに穿設した四個の支持杆下端部の係合孔があるのに、引用形態1にはそのような支持板と係合孔はない。

(2) 本願意匠には、バーナーにガスの〓し網が内装周設され、火焔孔に内接されているのに、引用形態1にはそのような〓し網はない。

(3) 本願意匠と引用形態1とは、ガス容器とバーナーにガスを送入するガス導管との接続手段が、ガス導管における煮炊器の支持力、各ガス容器上縁部内に設置したガス容器開閉弁との相互関係により、機械的構成上相違する。

(二) 本件審決は、本願意匠と引用形態2との次の相違点を看過した。

(1) 本願意匠には、支持杆を貫挿係止する四個の千鳥状の挿入孔を有する支持板があるのに、引用形態2にはそのような支持板はない。

(2) 本願意匠には、ボンベ本体とカートリッジ固定プレートとの間に間隙が存するが、引用形態2にはそのような間隙がない。

(3) 引用形態2においては、ボンベはクッカーに収納されるので、その横幅に制約があるが、本願意匠においては、そのような制約はない。

(4) 本願意匠では、バーナーの保護皿の底が水平状をなし、側壁は垂直に立ち上がっているのに対し、引用形態2では、保護皿は、湾曲傾斜してバーナーに臨んでいる。

(5) 本願意匠には、保護皿及び容器を支持する四個の支持杆が存するが、引用形態2にはそのような支持杆はない。

(6) 引用形態2には、クッカーが付属しており、これには、蓋、握持具ないし緊締具が付いているが、本願意匠にはそのようなものはない。

第三  請求の原因に対する認否及び主張

一  請求の原因一及び二の事実は認める。

二  本件審決の認定判断は正当であり、原告主張の違法はない。

1  取消事由1について

登録出願に係る意匠についての新規性及び創作容易性の有無の判断に当たっては、当該意匠に係る物品の属する意匠法施行規則の別表に定める物品の区分の如何に拘束されるものではないから、その異同は直接には右判断に関係のないことである。

しかも、本願意匠に係る物品「ストーブ兼用こんろ」と各引用意匠に係る物品「こんろ」とは、共に携帯用の主として野外燃料器具に関するものであり、その機能、構造、使用目的、同方法及び同態様を共通にするもので、したがってこれら意匠を創作する条件は軌を一にするから、これら両意匠に係る物品は明らかに同一若しくは同種のものである。

2  取消事由2の(二)の(2)について

本願意匠のボンベ本体(カートリッジ、燃料槽、ガス容器)とカートリッジ固定プレートとの間隔は本願の出願書類全体をみても明確には開示されておらず、またこの種物品の特性からみて引用形態2の該部も同程度で同様の構成要素からなるものと認められるところであり、両者に格別な差異はなく限られた部位に関するもので本件審決の判断に何ら影響はない。

3  同2の(二)の(1)及び(3)ないし(6)について

本件審決における引用形態2についての引用は、下部ボンベ部(ボンベ本体)及びボンベ固定プレート(カートリッジ固定プレート)であるところ、原告の主張はいずれも引用形態2のこんろ本体部に関するもので、本件審決の拒絶理由に引用していない点についての主張であり失当である。

第四  証拠

本件記録中の書証目録記載のとおりであるから、これを引用する。

理由

一  請求の原因一及び二の事実(特許庁等における手続の経緯及び本件審決の理由の要点)については当事者間に争いがない。

二  そこで、取消事由1について検討する。

原告は、「本願意匠は、本願に適用されるべき意匠法施行規則の別表の区分では九類に属するのに、引用形態2の物品は、同別表の区分で一一類に属するものであって、本件審決がこのように異なる区分に属する物品を引用形態として用いたのは違法である。」旨主張する。

しかしながら、「ガスストーブ兼用こんろ」は、「ガスストーブ」に兼用できるとはいえ「こんろ」であることは、その文言からして明らかである上、成立に争いのない甲第一号証、原本の存在及び成立に争いのない甲第二号証、第三号証の一、二によれば、本願意匠に係る物品「ストーブ兼用こんろ」と引用形態2に係る物品「こんろ」とは、共に携帯用の主として野外燃料器具に関するものであり、その機能、構造、使用目的、同方法及び同態様を共通にするものであるから、これら両意匠に係る物品は明らかに同一若しくは同種のものであると認められる。

したがって、本件審決が、本願意匠の創作容易性の有無の判断に当たって、「こんろ」である引用形態2を引用形態として引用したことに違法はない。

三  次に、取消事由2について検討する。

1  本願意匠であることについて当事者間に争いのない別紙図面1の記載によれば、本願意匠の要旨は、円柱形の上方が丸みを帯びたガス容器の上方に、半円球状(椀型)のカバー体及びガスの噴出量を調節するつまみの付設された円筒形状のガス噴出口部を装着し、その上部に支持杆四本を十字状に設けて、支持杆のコの字状屈曲部に円形の保護皿を嵌装載置したこんろ本体と円形の煮炊器であると認められる。

一方、前掲甲第一号証によれば、引用形態1の「こんろ」の意匠の要旨は、台座の上に載置された円柱形の上方をほぼ円錐台形状としたガス容器の上端に、ガスの噴出量を調節するつまみの付設された円筒形状のガス噴出口部を装着し、その上部に支持杆四本を十字状に設けて、支持杆のコの字状屈曲部に円形の保護皿を嵌装載置したこんろ本体と円形の煮炊器であり、引用形態2の「こんろ」の意匠の要旨は、円柱形の上方が丸みを帯びたガス容器(カートリッジ(ボンベ))の上方に、半円球状(椀型)のカバー体(カートリッジ固定プレート)及びガスの噴出量を調節するつまみの付設された円筒形状のガス噴出口部(噴射装置)を装着し、その上部に五徳及び風防が付設され円形の保護皿を載置したこんろ本体と円形の煮炊器であると認められる。

右事実によれば、本願意匠は、こんろ本体のガス噴出口部より上の部分及び煮炊器は引用形態1の上部及び煮炊器と、また、こんろ本体の下部は引用形態2のカートリッジ(ボンベ)及びカートリッジ固定プレートと、いずれも意匠の要旨は同一と認あられる。

2  原告は、本願意匠は引用形態1及び引用形態2とは主張の点において相違する旨主張する。

しかしながら、原告の主張する相違点は、意匠の要旨には関係しない細部の差異を相違点として主張する(取消事由2の(一)の(1)ないし(3)及び(二)の(2))か、本件審決が引用しない点についての差異を主張する(同(二)の(1)及び(3)ないし(6))にすぎず、いずれも理由がない。

すなわち、取消事由2の(一)の(1)の点については、本願意匠には支持杆を貫挿係止する四個の千鳥状の挿入孔を有する支持板が存するが、右支持板は組み立てられた際には噴出口部と一体をなし、噴出口部の上部に四本の支持杆が挿入係合されているものと認められるのに対し、引用形態1には支持板が存するか否かは明らかではないが、噴出口部の上部に支持杆四本を十字状に設けていることからすれば、引用形態1と本願意匠とは格別の差異は認められない。

また、取消事由2の(一)の(2)の点については、本願意匠にはバーナーにガスの〓し網が内装周設されることは認められるが、〓し網は外部からは全く目視できないものであり、仮に引用形態1に〓し網が存しないとしても、この点において両者に意匠としての相違はない。

さらに、取消事由2の(二)の(2)の点については、本願意匠のカバー体は、ボンベ本体の上にあって、半円球状(椀型)であり、一方引用形態2のカートリッジ固定プレートもボンベ本体の上にあって、半円球状(椀型)であり、その形態に差異はなく、本願意匠にはボンベ本体とカバー体との間に間隙が存するか必ずしも明らかではないが、仮に存するとしても、引用形態2においても、ボンベ本体とカートリッジ固定プレートとの間には凹部が存することが認められるから、本願意匠と同程度の間隙は存するものと認められ、本願意匠と引用形態2との間にこの点についての相違はない。

なお、取消事由2の(一)の(3)については、意匠としての相違についての主張とは認められず、仮に主張の各部位に多少の相違があるとしても、意匠の要旨に係るものではない。

3  したがって、本件審決が「本願意匠は、引用形態1の下部ボンベ部及びボンベ固定プレートを、引用形態2のボンベ及びボンベ固定プレートに組み替えたまでのものにすぎない。」と認定判断したことに、原告主張の違法はない。

4  また、前掲甲第二号証の本願意匠登録願の意匠に係る物品の説明の欄に、「その燃料は必ずしも限定されないが、上記携帯目的に適合する近代的な燃料、例えばEPIガスの如きがよい。」と記載されていることからも明らかなように、ボンベを変更することは、この種の物品では一般に行われていることと認められる。

したがって、本件審決が、「このようにボンベを変更することは、この種の物品では燃料使用時間に応じてひとつの機種で数種のボンベを用意していることが一般に行われている点を考慮すれば、極めて容易に着想しうることである。」と認定判断したことに、原告主張の違法はない。

四  よって、原告の本訴請求は理由がないからこれを棄却することとし、訴訟費用の負担について行政事件訴訟法七条、民事訴訟法八九条を適用して主文のとおり判決する。

(裁判長裁判官 元木伸 裁判官 西田美昭 裁判官 島田清次郎)

別紙図面1

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別紙図面2

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別紙図面3

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